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2016年のおせち

 昨年春頃に引っ越しをして、初めてのお正月を迎えました。
 以前より広くなって、念願の、何も置かない部屋をひとつ、確保する事が出来ました。6帖京間。アルミサッシが無粋ですが、床の間の天井に網代が貼ってあったり、少し少し、意匠があるのが気に入っています。
 そこで今年のお節は、この部屋で食べようと思いました。普段はフローリングにテーブルですが、建具膳にお重でおせち、というのが、どうでも良い事ですが、どうしてもやりたかったのです。
 今年のお重は、私が小さい頃には既に家にあったものを選びました。二段重の、素朴な塗りのお重です。昔父親が母親に向かって「漆器の扱いがなってない」と随分怒りました。塗が所々めくれて浮き上がり、木地が見えています。でも、手放せない。小さい頃はそんなに怒らなくてもと思っていましたが、今は少なからず、その気持ちがわかります。
 旅先の旅館以外で久しぶりに畳の上で食事をすると、アシスタント経験者の悪い癖で普段はずいぶん早食いの私ですが、とてもゆったり食べれるのを今更ながら感じました。ちょっと食べ、ちょっとごろり、なんて無作法も、お正月らしくていいなあと思いました。
 すこし前には断捨離とか、去年かには世界に最も影響力のある100人?とかで、片付け術を提唱する日本人女性が取り上げられたりと、両方とも読んでも無いのであれですが、個人的には要るもの、要らぬものの定義って、やっぱり本当に難しいなあと感じています。これまで気にもかけずにそのままにしておいた物が、ふとたまらなく愛おしくなったり、その気になるまで随分面倒で、ついやめてしまおうかと思う慣習をもう一度丁寧にやってみると、やっぱり気分すっきり心地よかったりもするからです。個人の生活の中でもこれですから、他者と共存する社会や都市形成なんてフィールドに至れば、要る要らないの精査なんて、そんな簡単に結論づける事など出来ないでしょう。
 けれど。古いもの。一見快適では無いもの。時間がかかること。要らないかもしれないものに囲まれて生きるのも、どうでも良い事に引っかかって生きるのも、それもまた、人間らしいんじゃ、ないのかなあと。

 今年も一年、そんな風に、あちらこちらと行ったり来たり。前のめりか後ろ向きかは分かりませんが、好奇心を働かせ、楽しい事に真面目に向き合う、そんな毎日を送りたいと思っています。
 どうぞこれからも、宜しくお願い致します!

谷口菜穂子写真事務所
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