おひなさま

滋賀県は五個荘。近江商人ゆかりの屋敷が並ぶ一帯で、この時期毎年行われている「商家に伝わるひな人形めぐり」。訪れたお屋敷では、近江の麻をまとった現代創作雛が、近江八景を物語る最中です(毎年1テーマづつ制作。八景のうち5つが完成)。
麻の衣装をまとわれた人形はいずれも色目が繊細で、素材の持つ本来の固さはむしろ、お雛様がまるで優雅に動き出すような瞬間をとらえたように、柔らかな印象を持ちます
聞けば作者である雛匠・東之湖氏は元は京都の出身で、現在は五個荘にて創作活動をされています。分業のイメージがある人形制作ですが、東之湖さんはお顔から着物に至るまで全てご自身で作られるとの事。若くして膠原病を患い、弟子はとらず、一心で創作されているのであろうお人形には、語らずとも見る者の心を強く打つ、独特の美しさや優しさのようなものが秘められています。
昭和初期に商運を求め、朝鮮半島や中国にて大きく百貨店展開を築きあげた近江商人ゆかりのお屋敷も今は静か。春の気配を感じる庭先の光に照らされて、現代に至る微かな幸せを、かみしめて、大切にしてゆきたいなとしみじみ思うのです。