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思い出の味を育てよう。

 

 石川から「筆柿」が届きました。

 小ぶりながらとても甘く、すっきりとした後味のキレイな柿。

 この柿、実はこの度ご縁があって海沿いの集落にあるお家を取得しまして、その裏庭で採れた柿なんですが、お家の所有者さんが家の鍵と一緒に送って下さったんです。

 この秋にはコロナによって3年越しの開催となった地元のお祭りをご家族揃ってこの家で見れたこと、普段遠く暮らす子供もお孫さんも集まって喜んでおられたと、添えられた手紙に綴られていました。

 私もご一緒にどうですかとお誘いいただいたんですが、今年のお祭り期間は残念ながら仕事で忙殺されて叶わず、でも、結果としてご家族皆さん水入らずでお過ごしされたこと、良かったなあと思いました。それはきっと、この柿だって、私はただ食べて美味しいなあと思うのと、ご家族にとってこれまでの思い出が詰まった柿の味わいの深さは、まるで違うだろうと思う気持ちとシンクロします。

 がしかし、元々は縁もゆかりも無い私のような人間に、都度都度深いお心遣いして下さる事、何より事務的で無機質なやりとりじゃ無く、所有者さん家族とこうしたやりとりを重ねた上でお家を取得出来たことには感謝の気持ちでいっぱい。大事にしたいなあと心から思っています。

 

 さて、石川のお家ですが、1960年代に建て替えられた建家ですのでいわゆる「古民家」と言うジャンルには属さないでしょうが、海に近い旧街道に面した、板壁に格子、海風や雪に強いとされる照りのある黒釉薬の能登瓦が切妻屋根に載った能登地方らしい町家の佇まいです。そして内観も、冠婚葬祭が行われただろう公共要素の続きの間と、家族が普段使う生活の場が渡り廊下で仕切られており、いわゆる公私がしっかりと区切られた伝統的な造りとなっています。

 また、立派な納屋のさらに奥はとても大きな庭となっており、さくらんぼ、柿、イチジク、葡萄棚まであって、私も果樹や草花を細々育ててますがそれらを地植えしてもまだまだとんでもなく余裕のある庭です。

 他には、いわゆる空き家特有の残置物も一切無く、客間の畳も青々、家の隅々までとても美しく保たれていて、大きな修理箇所と言えばボイラーくらい。雑草も定期的に刈られていたそうで、とてもとても、大事にお家をこれまで守ってこられたのだというのがわかります。

 本当なら、私がもっと若かったら、大家族だったら。。。もっともっと、大事なお家を存分に活気あるものとして活用することも出来たでしょう。けれど、これから、皆さんの大切な思いを引き継いで、大事に大事に、このお家を自分なりのやり方で解釈して活用して、出来れば元来的な地域との公共の場としての在り方、人が集える場として、模索出来たらなあと思っています。そうやって、自分なりの思い出をたくさん作って、愛着のある場所にしていけたらなあと。

 

 ・・・と、その前に、今はまだしばらく関西中心で仕事しまくって、時々二拠点でDIYと庭作りかな(笑)。

谷口菜穂子写真事務所
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