城南宮に、メンテナンス。

 怒涛の4月が終わろうとしている。

 と、言っても続きものの仕事が連休にかかり、気持ち的にはまだまだ臨戦体制。ゴールデンウィーク中の車の移動がスムーズに行くか、気がかりでもある。
 そんな時、ひょっと油断してメンテナンスを怠り、何かあってはたちまち困るのが、我が大事なアシスタントとも言うべき写真機材を運んでくれる車。体が先か、車が先か。遠路高速用にタイヤの空気圧をアップし、オイルにエレメントの交換をと、病院の待合よりも苦手な整備工場に、車を連れてゆこう。

 と、ただ待っているのも面白くないので、メンテ中、どこか近くに気分転換出来る場所は無いか。ふと思い立って、久しぶりに京都は南に位置する「城南宮」へ。
 全国的には、「曲水の宴」で有名な城南宮。四神相応の地である平安京に都が遷った際、国の安泰と都の守護を願って創建され、平安後期には周囲に離宮が築かれ院政の拠点となった歴史ある所。近代に至っては、明治元年に薩摩藩が布陣してこの地で大砲を轟かせて鳥羽伏見の戦いが始まり、やがて新政府軍の勝利が納められた場所である。

 今や面する国道1号線に名神高速道の入り口など、その風情もあまりに遠い周辺の光景であるが、さすがは離宮も築かれたとあって神苑は広く、鳥居をくぐるとそこは完全に外とは空気が違う。

 城南宮の神苑である「楽水苑」は、「平安の庭」「室町の庭」「桃山の庭」と、3つのテーマが掲げられ、四季折々の草花を楽しむことが出来、王朝の雅を偲ばせる「曲水の宴」も、この庭で行われる。椿や枝垂れ梅の時期、そして曲水の宴には多くの観光客で賑わうが、特に何も無い日の午後はこんなにも訪れる人の少ない事には驚いた。昨今どこもかしこも人でごった返す京都の観光地にあって、まことに希少な場所である。

 平安時代後期の離宮の景観を再現したとされる枯山水の庭。清流の注ぐ小川。室町様式で作られた池泉回遊式の庭。新緑に花々が咲き誇り、まるで時が止まったような景色の中で、ふわりふわりと色あざやかな鯉が泳ぐ。目を閉じて、暖かな日差しをまぶたに感じながら、夢を見ているような心地である。

 歩いていると、見かけたことのない花に出会った。

 気づいたのは花よりもその香りで、まるで木熟バナナのような、甘く爽やかで、ずっと鼻の奥で心地よくまとわりつくような、なんとも良い香り。

 すぐ側の庭木を手入れされている庭師さんに声を掛けて、名前を教えてもらった。「オガタマ」。漢字では「招霊(おがたま)」と書き、別名では「バナナツリー」とも。調べると、日本神話においては天照大神の天岩戸隠れにおいて、天岩戸の前で舞った天鈿女命(アメノウズメノミコト)が手にしていたとされ、古くには榊などとともに神前に供える木として用いられたとの事。植えられていたのは「トウオガタマ」で中国が原産。実は一円玉硬貨に施されている木の図案とされると、この度知った。
 それにしても忘れがたい香り。一緒にクンクンといつまでもニオイを嗅いだ遠方から来られた見知らぬご夫婦が、「玄関にでもあったら、いいわねえ」と言う声に乗せられて、すぐさま苗木をネットで注文してしまった。届くのが楽しみで仕方ない。

 

 さて。最後にこの辺りのお勧めの甘味を一つ。

 城南宮の前を走る1号線のちょうど向かい側にある「おせきもち」さん。
 江戸時代、この地に「おせき」さんと言う美人の娘さんが居て、鳥羽街道往来の旅人に編笠の形をした餅を笠の裏に並べて売り、茶を供したことが始まりとされ、コシの強いお餅に丹波大納言の上品な甘さで炊いた粒あんがたっぷりと乗った「おせき餅」は最高に美味。お店ではこのおせき餅とおはぎのみが並び、店先で食すことも、また持ち帰りも出来る。
 その昔鳥羽伏見の戦いではあたり一帯が焼き払われて閑散とした地。そのまた昔に想いを馳せるのは甘味にて。

 大阪方面から車で走るとつい、見逃してしまいそうな場所だが、すっ飛ばすにはあまりに惜しい、美味しいお菓子である。

 

 と、車のメンテと共に、心と体のメンテも済ませた午後の出来事を写真にて。

 そうだ。方除けに名高い城南宮で、遠方に居を移す友人の無事を祈って、御守りも買ってゆこう。