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さよなら車。いかなごくぎ煮。

中古で買って、なんだかんだで7年程乗った車とさよならした。
元々は惰性の極みで選んだ初期ちびパジェロ。普段は好きでもなんでもない運動靴みたいな存在だったけど、悪路や冬の雪道ではがぜん、頼もしい友達になってくれた。仕事の現場がどんなとこでも平気。ゆえに冬の終わりに車検を迎えるというサイクルに、さあ次何乗ろう、という気持ちが揺らいでしまい、ここまできてしまった。
実際、今回の車検前の冬の始まりまでは次は何乗ろうかと検討中だった。けれど結局冬を越えて、この冬はまた雪も多くて大活躍してくれて、もう一回車検を受けてみようか・・・と迎えた整備。で、古い車にありがちなオイル漏れやらなんやらを指摘され、それはいくらなんでもかかり過ぎでしょうと背中を押され、延命拒否。
不覚にもさよならする時、言っても動物じゃないから無機質なだけのボディをぽんぽんと叩いて、ありがとうねと言うと泣きそうになった。仕事をしていて、機材の次に自分を支えてくれるのは車。こんななるまで酷使してごめんな。とは言えそう、好きでもなかった筈なのに正直びっくりもした。

家に帰ってぼんやり、これまで乗って来た車の事を思い出した。毎度中古ばっかり。アシスタントの頃に乗っていたのはウッドパネルがアメ車みたいなグロリアのワゴン。両サイド全面を思いきり凹ませてさようなら。自分で一番最初に買ったのはMTのボルボ。最後は電柱にぶつかって前をVの字にしてさようなら。次はアメリカ日産がデザインしたパルサーエクサ。知らない人によく「がんばって乗って下さいね」と言われたけれど、兄には「よおそんなアホみたいな車買うわ」と呆れられた。JBLのスピーカー、何せ後ろ姿がカッコ良かった。エンジンが終わってさようなら。次はゴルフⅡの丸目で少し世間に迎合。高速だとがぜん機嫌がよかったけれど、山道はどうも苦手。最後は1ヶ月に4度もJAFのお世話になってさようなら。と、要するに自分が好きな車は四角ばった、ちょっと昔の近未来カーのような感じ。そりゃあ、クラッシックでエレガントな古い車は最高だけど、本気でゆとりが無いと保有出来ないし仕事じゃ使えない。
そしてこれらのチョイスに不可欠な人が、もうかれこれ20年以上に渡って車を見てくれた整備のNさん、だった。
なにせ古い車を乗る人が好きな人だった。ので、Nさんのガレージにはそれこそ憧れの、メインは欧州の名車がいつも整備待ち。自分のような貧乏人からはたいした整備代を取らずに最低限身を守る、また他者に迷惑掛けない個所を優先して直す、というなんか、アメリカあたりの整備の人みたいな感じ。だけどそんなんじゃ商売にならないから、とれる所からはしっかり取ってたんだろうなあ、という程よいうさん臭さも好きだった。日本の車検制度における整備個所に対して真面目に直す、というよりも、その車と懐事情に優しい、そういう規格外で一匹狼的な整備の感じも好きだった。
そんな、曖昧だからこそ信用出来る、これまで車の事では18歳で免許をとって以来ずっと頼り切りだったNさんは、一昨年ガンで亡くなってしまった。

今回さよならした車も生前のNさん経由で買ったけれど、Nさんは売る事に乗り気じゃ無かった。つまり私も自分も全く好みじゃ無いからだ。ただ、その頃に私の仕事が地方の、それも雪が多いエリアに行く事が多かったので、じゃあ渋々、高速走行もしんどくないだろうとジムニーじゃ無くこっちかな、と探してくれた。そんなこんなのやり取りがあって、整備もNさんから遠のいて、そしてついにご本人ともお別れしてしまった。
そんな存在なき後、さあ、ホントどうすればいいのかがよく分からなくなってしまって今日に至る。

困った事に、エコロジーとかなんとか言われて古い車がますます居心地の悪くなってしまった日本で、ちょっとばかり古い車ですら一掃されたのか、街中で思わず振り返るようなカッコいい車にすれ違う事が近年めっきり少なくなった。歩く事、自転車に乗る事、地球環境を守る事、燃費向上、それは良い事だ。けれど諸々の価値観の矛盾を自ら抱えて尚、車に頼る自分、そしてやっぱり最後の最後まで車というものに乗っていたい自分は、これから何に乗ったら良いのか心底困り果てている。車、もう無くてもやってけないかなあ。レンタカーとか?いや、駄目だ駄目だ。
と、そんな中で魚屋の友達が生のイカナゴ1キロをどーんと、留守中の玄関前に置いてってくれた。ホントありがたい。で、これを一気にクギ煮にしながら田舎なキッチンのたまらない薫りに包まれ、やはりスローとファストの絶妙のバランス、自分の好きなバランスを保たなきゃならんね、と思い立つ。
どこまでこだわりを保持出来るか、帳尻あわせられるかは分からないけれど。

谷口菜穂子写真事務所
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