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のこされたもの。

アントニン・レーモンド設計。1932年竣工から3期に渡って建てられた現行使用の学校施設。
外観は修道女らの意向が強く反映されフランス風の装飾が施されており、奥へ続くほど建築家の真髄が存分に発揮された建物となっている。顧客の求めに丁寧に応じ、長い年月に謙虚さと意志を保ちつつ、信頼を勝ち得て自らを発揮するに至るストーリー。人と関わり成果を共有する仕事の姿勢を、改めて建物から教えてもらった。
どの場所を切り取っても採光が本当に素晴らしく、光の先にある建材や意匠もシンプルながら印象を強く残す。それらは空間の主役である学生の姿をより美しく健やかに、そして聡明に見せる。スポットをセレクトし、人物を置いてシャッターを切るたび、捉えに間違いは無いか、何が最善であるかの方向性を向こう側から指されているような心地がした。

今々声高に安全と最新設備なるものを誇る一方、手仕事を感じない建物が席巻する現代。瞬間は綺麗に見えても、果たしてどの位の時間で色あせてしまうだろう。10年。20年か。仕事の結果が街を占拠するも、それらは謙虚さとは程遠く、その場しのぎの迎合、結果的には傲慢にも感じる程、歴史の文脈とは完全に分裂している。実際には誰が好んだかも明確で無く、ゆえに受け手の思いに沿ってというコンセプトも空虚。意志も思想も哲学も無い建物とは、ただ消費され、また壊されてゆく存在なのか。
災害への不安や恐れに煽られ、時の経済情勢いかんで利用され、あるいは消し去られる多くの歴史的建造物たち。そんな中、世紀をまたいで大切に受け継がれ、いつまでも教えを乞う事が出来る空間が、むしろそんな今だからこそ一層かけがえなく、そして強く輝いて見えた。

慌ただしく流れる時間の中、学ぶ事に専念する間も無く、生かされる仕事というものに身を置く立場にありながら、インプットとアウトプットを同時にさせて頂けるという日々は本当に、ありがたい。

とある女学校での撮影の合間に。お許しを得て。

谷口菜穂子写真事務所
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