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緑芽吹く、高山寺へ。

 京都は西郊にある紅葉の名所・高山寺。奈良時代末期に開かれた古刹です。

 「鳥獣人物戯画絵巻」を始めとする多くの文化財が集積されています。

 

 2018年9月の台風21号によって、甚大な被害を受けた高山寺。台風の襲来は時間にすれば僅か30分程度だったそうですが、竜巻のような強い風が境内を襲い、樹齢100年から300年の杉や檜が次々と倒れ、金堂は半壊するなど復旧するには5億円近い被害を受け、2019年にはクラウドファンディングが開始されました。台風が過ぎ去った後の記録写真を見るとあまりに衝撃的で、普段各所に美しい光景があるからこそカメラのレンズを向ける事が出来る立場の一人として、あまりに非力な事でしたがお小遣いを当時寄付した次第です。

 昨年の3月31日をもって大規模修復工事が完了したとのお知らせを聞いて、ようやく、1年越しに高山寺を訪れる事が出来ました。私の兄が勤めている京都の造園会社がこの改修に関わったとの事で、散策には兄らの仕事を感慨深い気持ちで眺めました。

 広い境内、どこから手をつけて良いか、我々素人には途方も暮れる程の荒れ果てた光景を、実際に行動に移して立て直してゆく姿は今はもう目の前にはありませんが、その多くの関わられた人間の痕跡には心から尊敬し、また感動しました。

 

 境内には大きな切り株もあちこちに点在し、恐らくは景色も随分変わっただろうと思いますが、多くの方々のご尽力によって蘇った静寂は大変美しかったです。


 今回は車で高雄から高山寺へ、そこから北上して京北町を通り、帰りは今がちょうど見頃となった「黒田百年桜」を愛でて後、花背、鞍馬経由で帰路へ。

 

 「黒田百年桜」とは、山桜の突然変異種で、百年と銘打たれていますが樹齢自体は三百年を超えた桜だそうです。八重の中に一重が混じる珍種で、京の桜守として知られる佐野藤右衛門親子が30年に及ぶ執念により苗づくりに成功し、命名した桜です。

 「昭和58年に大阪造幣局の桜の通り抜け百年を記念してこの若木2本が植樹されてます。今年もコロナで通り抜けも出来ませんが、また収まったら黒田の桜を見つけてみてくださいね」と言う集落のおじさんは「今流行の変異株、じゃなくて、この桜は変異種ね」と、冗談も交えて説明してくれました。

 

 帰り道の途中、久しぶりに通った花背峠は、山の斜面のあちこちが先の2018年の台風による爪痕も痛々しく、倒木がたくさん残留したままで、ずいぶん景色が変わっていました。

 

 やはり、自然による脅威に襲われると、人間の尺度や時間軸ではそう簡単に「無かったことには出来ない」のだと痛感した次第。

 それでも花々は微笑んで、京都の山奥に彩りを添えて我々を癒してもくれます。


谷口菜穂子写真事務所
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