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長野県須坂。街のディテール探訪。

 

 長野県須坂。

 須坂藩主堀氏の館町で街道の交差する街にして、明治から昭和にかけては生糸業で栄えた場所。当時の隆盛ぶりはその街並みに色濃く残っていて、現在はそのままの姿で公開されているお屋敷や、美術館、お店や宿などに転用されていてそぞろ歩きで外観を垣間見るだけでなく、実際に中に入って存分にディテールを堪能出来たりします。

 全国各所、その街の生い立ちや発展を遂げた産業、または気候に準じた家々の様子はやはり、その土地ならではの唯一無二感に溢れるのは本来ですが、過去の歴史と言うのはその時代の様々な事情によって拭い去られているものも多く、なだらかに時代を遡ってその街、その街の人格や根っこを知ることは出来ないことが多いのも現状。その点、こちら須坂は今まだ残るものを大切に残して語ろうとする気概を感じる街の一つだなあと感じます。

 昨年のちょうど今頃に一度、また今年も7月下旬に仕事で訪れる機会に恵まれました。取材先はまさしく蔵の町並みと呼ばれる中心エリアにして、撮影開始は早朝のために前泊。

 と、言う事でせっかくなので時間の許す限りよく見てみようと思いました。

 


 旧上高井郡役所。

 

 大正6年に建築された公共建築。現在は各種資料館、市民交流の場として活用されていてなんと夜十時まで空いている。私が訪れたのは日が落ちるギリギリ前で、ダンス教室が開かれる前!と言う事で誰も居ない2階ホールの夕景を拝むことが出来た。

 光のマジックにハッとさせられるのはこうした古い建物内によくある事だが、言い換えれば近年の建築でわあ!と感動するドラマチックな光の光景に出会うことはまずもって滅多と無い。

 単なる外観や内観の見た目云々だけでなく、日差しに対する窓の方角における細かな計算に基づいた設計や、その取り入れた光が映り込む壁や床のディテールが、やっぱり昔はよく考えられていた、あるいは人々の中で光と影の捉え方(ひいてはその光があるが故の色や質感)に対して、とても繊細だっただろうとつくづく思う。


 須坂祇園祭。

 

 毎年の7月21日から25日の5日間に渡るお祭り。

 名前の通り、元は京都の八坂の祇園祭の流れを組みつつも独自発展を遂げたものだそうで、現在は長野県無形民俗文化財に指定されているそうだ。

 疫神を退散させる大事なお祭りだが昨年は開催されず、今年は従来の巡航ルートを大きく簡略させたものがちょうど、出張の日と重なって拝見することが出来た。古い街並みに御神輿や赤い笠鉾が映えて美しい。


 須坂クラッシック美術館。

 

 蔵の町並みが残る旧市街の玄関口にあるお屋敷。

 明治初期に建てられた元は須坂藩御用達の呉服商の屋敷にて、明治、大正、昭和と三時代に渡ってこの街のそれぞれの時代における商業、住居、サロンとして役割を担う。

 現在は日本画家の岡信孝氏より寄贈を受けた古民芸コレクションを収蔵する美術館として活用されているが、建物の材や格式の高い造り、建具などの細かな意匠に圧倒される。

 中でもガラス障子や格子の美しさには感動。たった一部屋でも良い。こんな美しい窓が家にあったならどんなに自分の住まいがいつの時間もいつの季節も好きで居られるだろうと妄想が止まらなかった。


 と、あくまで仕事の合間の街の垣間見に過ぎないけれど、更にこの街の姿に興味が深まりました。

 まだ須坂の中でも行けてない所がいくつもあるので、また再訪できたらな。。。と願いながら、街を後にしました。須坂でお出会いした皆さん、ありがとうございました。

ああしかし。近畿圏から長野は遠いなあ。。。


谷口菜穂子写真事務所
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