
滋賀県立美術館へ行ってきた。ロバート・メープルソープの写真展以来というのでいつの事だったか今更調べたら1993年(!)。当時、メープルソープは没後と言え国内では一般人がそこまで知らない存在だったのかもしれない。美術館のアーカイブにあるように、観覧者数は僅か25,000人程。だがおかげで当時、静かな空間の中で散々にその世界観と、オリジナルプリントの展示が観覧出来た。今でもその時の記憶は鮮明だ。まだ、私が写真業界に片足を付けながらカメラマンになるなんて、思っても無かった時期だったけど、背中を押された一つのきっかけであったのには違いない。何故なら、その後ほどなくして写真を撮るようになったから。
さて。そんな32年ぶりの今回。何よりタイトルの「BUTSUDORI」のインパクトにやられた。
「ブツドリ」とは我々広告写真業界で「物撮り」つまり静物(商品)撮影を指す。なんてニッチなタイトルをつけるんだ。。。痺れた。
展示内容はつまりは静物写真の歴史的コレクションで、日本人写真家たちによる、写真術創世記からピクトリアリズム時代のもの、文化財記録、広告写真、現代アートまでアーカイブされていた。普段、展覧会のキャプションはあまり読まずに展示作品を見る方だが、今回ほどキャプションをしっかり読んだものは無い。それだけ、時代背景や作者(日本人の写真家となると花鳥風月か人物写真系がどうしても前にきがちなので)の来歴も興味深かった。
その中には、頭をドカンとやられるような、まだ昨今のようなライト機材が無い時代に見事なライティングと構図力による仏像写真があったり、和花写真があったりと、単なる記録性から超越した創世記の写真表現に良い意味で打ちのめされた。モノに問い掛け、ひたむきな作者の様がいずれの写真にも宿っていた。
また、日本における文化財記録の歴史は、明治時代初期の廃仏毀釈によって多くの貴重なものが破壊され消滅する危機に瀕した状況を憂いだ明治政府が、当時いよいよ写真術がその記録を行うのに最適なツールとして見出され、政府主導のもとで始められたのがきっかけであるというのも知った。
展示の最後の最後のスペースには、簡易撮影ブースが設けられていて、自由にそこにある様々な日用品などのオブジェを使って撮影体験出来る、という無人ワークショップコーナーも素敵だった。子供さんもきっと絶対楽しいはず。
いやあ。。。しかしいよいよ、デジタルでしかあり得なくなった昨今の写真界において、フィルム及び銀塩写真自体が、これほどまでに実際にオリジナルを見ないことには印刷媒体や、あるいはネット上において、そのテクスチャーも含めて写真の力が伝わらない領域になったのかと、改めて驚く。
それだけ、実物を見ることの凄みを、今回改めて感じた次第でした。
ブツドリというものに触手の湧かない人に、どれだけ響くか分からないニッチな内容ですが、物言わぬ写真(被写体)に魂の宿るこの展覧会、是非どうぞオススメです。
そして滋賀県立美術館のこの、開館40周年の記念にしてめちゃくちゃ尖ったコンセプトには、心からのエールを贈りたいです。本当に、素晴らしかった。何やってるの私、頑張らなきゃなあと思わせてもらいました。
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