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風の電話

 

 今しがた、NHKスペシャルを見て遅ればせながら「風の電話」というものの存在を初めて知りました。

 

 この風の電話とは、線がつながっていない電話ボックス及び古い黒電話の事で、2010年に庭師の佐々木格さんという方が、亡くなったご自身の従兄さんともう一度話をしたい、という思いから、岩手の浪板海岸が見渡せる自宅の庭の隅に電話ボックスと、パチンコ屋から譲り受けた黒電話を設置した事から始まったそうです。

 その翌年、東日本大震災の際に浪板海岸を襲った津波を目の当たりにし、生存した被災者が震災で死別した家族への想いを風に乗せて伝えられるようにと敷地を整備、現在に至るまで整備を重ね、岩手の三陸海岸を見下ろす丘の、「ベルガーディア鯨山」内に置かれています。(リンク→https://bell-gardia.jp/

 

 この「風の電話」はその後、日本国内だけでなく、アメリカやポーランド、南アフリカなど世界中へ設置の輪が広がり、今なお世界で550ヵ所以上増え続けており、特集ではウクライナ戦争で亡くなった恋人と語る女性、震災の際に避難誘導をしていて津波で亡くなられた息子さんと語り続けるお母さんなど、静かに映し出されていました。

 

 今日、また母親の家に残っている荷物を引き上げに行ったのですが、どうしようか考えあぐねている存在があります。それは黒電話です。

 これが何故もう使っても無いのに残されていたのか分かりませんが、想像するに母親が、自分の実家にあったものを宝物として取っておいたものなんじゃないかな、と思っています。勿論で線はとうに繋がっていませんでしたが、その昔、電話という通信機器が今の様に軽やかで無かった時代を引き摺った感覚だろう、昔の家によくあった様に(今じゃちょっと考えられませんが)、電話専用の小さな座布団に置かれ、埃が被らないよう共布でカバーが掛けられています。そして、わざわざ自分のメモリーボックスの様な、大きなガラスのショーケースの中に置かれていました。それを見た母親の妹さんすら「何これ」と冷笑して何ら思い出と繋げなかったくらい、本人以外にはどうにも読み取れない細々とした置物たちの中の一つです。

 とりあえず、今日は2階に置いていたのを一階に下ろしてみました。今更ですが、存在が結構重いんですね。置いた拍子に受話器がズレて「チン」と小さく音が鳴り、ダイヤルを回してみたら、不思議な感覚がしました。受話器を耳に当てる勇気が出なかったくらい、確かに、この古い電話には何かと繋がるかもしれない、人と電話によって話す事の特別な力があるように感じました。

 

 存在を二次元で見るだけではちょっと信じられないかもですが、こうした有り得ないものを介した「記憶のよすが」に向かう、大切な人をなくした人達の気持ちに実際触れたような、そんな感覚になりました。

 

※写真は母親の家の黒電話でなく、かつて大阪の街の中心に在った近代建築が見事だった「精華小学校」が解体される直前、この小学校の卒業生で保存活用運動を最後まで諦めなかった建築家の方の尽力で入らせてもらい撮影した、かつての職員室に残された黒電話です。